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こんな風にして大きな変化は起きるのか:LCのキャルホーン・レポートとシリーズ典拠の中止

2006-07-14
ちょっと前にサクランボのおすそわけをいただいた。にっこり笑っているつややかなサクランボを見ていると、少し気分がいい。スーパーなどでは「自分には関係ない」食品のひとつだが、向こうから自分のところへ来た。それも産地から。ほかにもいろいろ思いがめぐって、少し気分がいい。
そういうこともある一方、このところ頭が整理できない。それは左目の視力低下のせいでもあるが、そうでなくても、最近の目録をめぐる動きはつかみきれない。アメリカのことだが対岸の火事ではないと思う。
この項が、5月の時点で2つあった「書きたいこと」の1つなのですが、広範な内容のため時間がかかりました。まとめきれていませんが、本日アップします。なお詰めの甘いところがあるため、タイトルを含め、後ほど文章に手を入れると思います。(7.19改訂b)

2006年3月17日に、キャルホーン(Karen Calhoun)による『The Changing Nature of the Catalog and its Integration with Other Discovery Tools』(PDF・176KB)が出た。LCのプレスリリースはこちら。タイトルを訳すなら『目録の質的な変容と他の検索ツールとの統合』というところで、これは米国議会図書館(LC:Library of Congress)が、目録の現状と今後についてコーネル大学図書館のキャルホーンに委託していたものである。この報告、いわゆる「The Calhoun Report」の起こした波紋はとても大きく、白熱した議論が起こっている。

『At Water:日本研究』のochanenoさん(この下を参照)も指摘しているが、(というかグーグルによればこちらと国会図書館の単なる記事しかないのだけれど)「段階的実施のための青写真:2ヶ年計画(A Blueprint for Phased Implementation -- Two Year Plan)」の第四段階「技術革新とコスト削減(Innnovate and Reduce Costs)」の提案のなかに、その核心がある。すなわち、

4.2.3  (統制語である)LCSHを用いて人が総合的な主題分析を行うことを放棄し、主題を示す(統制語でない)キーワードを選択する;議会図書館にLCSHの廃止を勧告する
4.2.3 Abandon the attempt to do comprehensive subject analysis manually with LCSH in favor of subject keywords; urge LC to dismantle LCSH

LCSHを捨ててどうするかが、次に続く。

4.2.4  自動的(機械的)な主題分析の研究開発を促進させる、それには自動的な主題分析をサポートするLCSHの件名が入った古くなったデータの再利用方法も含む
4.2.4 Encourage research and development in automatic subject analysis, including ways to reuse legacy data containing LCSH headings to support automatic subject analysis

こうした方針に対して、マン(Thomas Mann)が議会図書館専門職組合(Library of Congress Professional Guild)を通して「A Critical Review」(PDF・108KB)を発表したのが、ほぼ2週間後の4月3日。こちらについては『At Water:日本研究』に「The Calhoun report" vs. Thomas Mann」という記事(    続々  続々々の4回)がある。

※組合といっても日本のものとは別物であろう。「AFSCME Local 2910」と称しているように、米国地方公務員組合連盟(American Federation of State, County and Municipal Employees)のひとつである。

この動きを受けて『ライブラリージャーナル(Library Journal)』誌のネット週刊誌『Academic Newswire 4月20日号』 が、「LCSHの終わり?挑発的な報告書が目録について物議を醸す(The End of LCSH? Provocative Report Stirs Up Cataloging Discussion)」という記事を書いている。

さらに次の『Academic Newswire 4月27日号』の続報では、アメリカ図書館協会(ALA:American Library Association)会長のマイケル・ゴーマン(Michael Gorman)の個人的な見解として、この報告書とそれに沿った段階的処置に反対する、という発言を掲載している。

※この4/20と4/27の2つを合わせ、さらに解説を加えたような記事が「議会図書館件名標目表の終わり?(The End of LC Subject Headings?)」である。(Norman Oderによる、2006/5/15)

さて、北米の図書館員でもLCSHや典拠ファイルの重要性を理解していないひとは少なからずいるのだろうが、キャルホーンがそうだとは思えない。「LCSHの廃止」はありうるシナリオの一つであって、絶対に廃止すべしというわけではなさそうである。

というのも「4.2.3」項の「注14」にグロスとテイラーの論文「我々は何を取りこぼしているのか?:キーワード検索結果における統制語の効用について」(PDF・1.88MB)★が示されている。この論文の結論は、件名がある場合に比べて件名が記述されていない目録では、キーワード検索した場合に適合する検索結果の3分の1以上が探し出せない、そのうえその3分の1は件名のみが付与された最も的確な検索結果でもある、というものなのだ。

★Gross, Tina and Arlene G. Taylor. "What have we got to lose? : The effect of controlled vocabulary on keyword searching results." College & Research Libraries.vol. 66, no.3 : p212-230.

それに「注11」で2005年のカリフォルニア大学(UC)のレポート「Rethinking how we provide bibliographic services for the University of California」(PDF・397KB)を素晴らしいと評価しているが、これが指摘している点で関係した部分を簡潔にいえば次のようなものである。

・あらゆる情報資源に対してMARCやAACR2やLCSHによる目録を作成するのではなく、対象(レベル)によって使い分けるべきだ。(III.2a)
・豊かな語彙を持つが複雑なLCSHを、より利用しやすくするため開発されつつあるFASTに注目する。(III.2b)
・統制語の使用は、名前、統一タイトル、年月日(時代)、場所(地理)に限定し、主題をあらわすLCSHやMESHの利用中止を考慮する。同時に、本の目次や索引がその代わりにならないか検討する。(III.2c)

見方は似ているが、こちらの方が表現が穏当である。※UCの図書館では現在このレポートについて検討しているという。(こちらを参照)

「キャルホーン・レポート」はなぜ、LCSHを廃止せよと、挑発的にかかれたのだろう。

好意的に考えれば、単なる言葉足らずなのかも、英語で書くとこんな表現なのかも、という可能性はあるが。

それにしても「メタデータ作成」も「分類」も「主題分析」も自動で行おうというのは、ちょっと極端だ。最低レベルの目録(メタデータ)はそれでもいいかもしれない。しかし機械がことばを「理解」することがありえない以上、レベル(質)の高い目録を作成しようとするなら、人間の作業がなくせるとは思えない。

目録の作成コストを下げるためにLCSHを使って件名を付与しないことが、情報資源を探す利用者の不利益になり、探すためのコストを引き上げる結果になる。そんなグロスらの論文を「注」に示していること、UCのレポートを評価していることなど、実は、キャルホーンは「目録を変えなきゃ」とは思っているだろうが、それほど過激でないような気がする。LCSHの効用も、それを付与しない目録によって利用者が受ける不利益もわかっているはずだ。

代替案のないままのLCSHの廃止はありえない。「キャルホーン・レポート」がOCLCのFASTに言及していないのも不思議である。

『Academic Newswire 4月20日号』が出たその日、LCはさらなる議論を巻き起こす発表をした。「シリーズ典拠」の新しいレコードを5月1日以降作成しない、というのである。前ぶれのない衝撃的なこの発表は猛反発を受け、LCは、ひとまず実施日を6月1日に延期する、と5月4日に発表した。

ネット上で反対する署名活動が大規模に行われた。

アメリカ図書館協会(ALA)は5月16日に公式に苦言を呈したが、5月26日にはALAの図書館コレクション・技術サービス協会(ALCTS:The Board of Directors of the Association for Library Collections & Technical Services)を通してLCの決定をしぶしぶながら受け入れた

そしてLCの目録政策・支援局(The Cataloging Policy and Support Office)は、『Series at the Library of Congress: June 1, 2006』を発表した。シリーズ典拠の作成は中止された。

これに対するOCLCの対応はどうか。

ちょうど5月は「OCLCメンバー評議会(OCLC Members Council)」が開催される月であり、そこでの討議も踏まえて「議会図書館の決定に対するOCLCの対応について(OCLC's Response to the Library of Congress Decision)」を発表した。要は、Worldcatではシリーズに対するアクセスを維持する方向で対応する、と表明している。これは当然の決定だろう。

この展開って……? RLGがOCLCに吸収された(正式文書こちらはOCLC)ように、シリーズ典拠をLCとOCLCの両方で持つ必要がない、ということがLCの決定の背景にあったのだろうか?

RLGとOCLC、同じような組織は2ついらない、そうした考えから、最近の動きが起きているような気がする。

この話題についてぐるぐる考えている間に、トーマス・マンが6月19日「議会図書館で何が起こっているのか?(What is Going on at the Library of Congress?)」(PDF・100KB)という文章を書いていた。興味のある方は読むと参考になるだろう。(わたしは未読、斜め読みもしていませんです。)

Categories: FRBR, LCSH, 件名, 件名標目表, 目録, 目録規則

ドイツ図書館もMARC21へ

2006-02-17

長く更新できず失礼しました。

先月のことですが、1月13日に愛知淑徳高校が開いた井上真琴さんの講演会(と、その2次会)に参加しました。お誘いくださった高校の先生にも、深く感謝をしたい。月日が経過するとともに、あの時間がとてもよい時間だったと思い出されます。
井上さんは以前この欄で取り上げた、ちくま新書『図書館に訊け!』を書いた人です。間近で井上さんと接して、前回記事に書いた「立ち位置」についての疑問は消えました。立ち位置は「最前線の現場から考えるひと」だと思います。これは当たり前のことですが、世間のなかでは結構難しいことだとも思っています。井上さんの仕事ぶりを垣間見て、「自分にとっての現場はどこか」をきちんと理解して、ちゃんと仕事をすることだ、と改めて自分を振り返りました。

さて今日の本題は、ドイツ図書館(DDB: Die Deutsche Bibliothek)もMARC21へいよいよ移行する、というニュースである。この話は同僚から聞いたのだが、調べてみると、DDBの『ddb, Umstieg auf MARC 21 = ddb, Moving to MARC 21』というページが昨年暮れに作成されていたようだ。

これは『ddb, Umstieg auf internationale Formate und Regelwerke = ddb, Changing for International Formats and Codes (MARC21, AACR2) 』※ に続く知らせで、2004年末にMARC21への移行が決定されて以来、専門プロジェクトによる検討を経て、2007年初めには準備が整うという。2008年にAACR3改めRDAが出ることを念頭に置いたスケジュールだろう。

※ RAK( Regeln fur die Alphabetische Katalogisierung = アルファベット順記述目録規則)とMAB(Maschinelles Austauschformat fur Bibliotheken = 図書館向け機械変換フォーマット)を、AACR2とMARC21に変更する件。

1996年から1997年におこなわれた「OCLC REUSEプロジェクト」の報告(カレントアウェアネス No.234 1999/2/20号を参照)によれば、RAKとAACR2、この両者には根本的な違いがある上、MABとUSMARCのフォーマットに互換性がないということであった。それが、1999年10月に来日したDDB副館長ウテ・シュベーンス(Ute Schwens)氏の講演では

「(引用者注:ドイツ国立図書館における全国書誌サービスで提供される)機械可読データのフォーマットは、MAB(図書館向け機械変換フォーマット)やUNIMARC、あるいはここ数ヶ月前からはUSMARC等である。」

とUSMARCが利用できるようになっている。

このほか主題アクセスへ対応するため、1997年からの「MACSプロジェクト」でSWD、RAMEAU、LCSH ※2 を連携させる仕組みを検討した。(カレントアウェアネス No.262, 2001-6-20参照)

※2
SWD  Schlagwortnormdatei = 件名典拠ファイル;ドイツ語
RAMEAU Repertoire d'Autorite-Matiere Encyclopedique = パリ国立図書館の件名標目表;フランス語
LCSH Library of Congress Subject Headings = 米国議会図書館件名標目表;英語

さらに2002年から、LCやOCLCとともに、とくに名称典拠ファイルについて「ヴァーチャル国際典拠ファイル(VIAF: Virtual International Authority File )」を構築しようとしている。(関連記事→ DDB | カレントアウェアネス-E No.23 2003-10-1 | カレントアウェアネス No.280 2004-6-20 | National Diet Library Newsletter No.142 2005-4

このほかDDBの英語ページをざっと見るだけでも、「Mapping FRBR - MAB(PDF・ドイツ語のみ)」「DDC Deutsch Project」など、過去のデータを生かしながら今後の展開に必要な作業を押さえていることがわかる。

こうしたドイツ図書館の仕事は、「その国やそこに住むひとにとって必要なもの」として自国の図書館が生き残るためになされているのだろう。これと同じ仕事が日本でも必要であることは明らかで、なのに、そうした動きがないように見えるのはどうしてだろう。

見えないところで成果があがっている? まさか、そもそも気づいてないってことはないと思うが。

■英国図書館(British Library)のMARC21への移行→Moving to MARC21 (BL) | カレントアウェアネス No.267 2001-11-20
■参考 →ドイツ図書館ポータル(Goethe-Institut)

Categories: FRBR, MARC, ドイツ図書館, 典拠, 目録規則