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「生きてゆくことと学問の接点」

2006-09-11

「阿部先生が亡くなった」と知人から聞いたときには「その時が来たのか」と冷静だったが、時間を経て、思い出すたびに悲しい気持ちになる。阿部謹也さんは、直接教わったことはないけれど勝手に先生と思っているひとの一人である。そうであるが故に、失礼な言い方かもしれないが、たいせつな先生である。

とりわけ 「世間」について考えることを教わった。これはわたしにはきわめて重要なこととなった。

『自分のなかに歴史をよむ(ちくまプリマーブックス;15)』は、最初に読んだ先生の本だ。

〈テーマ展示〉など、いろいろな場面で紹介している。とくに学生や院生に対しては、阿部さんが学生時代に先生から言われた、「それをやらなければ生きてゆけないテーマ」を探す、というくだりの話をすることが多い。

ここで、わたしのことも書かねばなるまい。

大学を出て一度就いた仕事を辞めて大学院で勉強した経験、司書という仕事、これらをえらんでやってきた以上、わたしたちの日々の暮らしと学問のかかわりについて考え続けることが必要だと思っている。

難しいことではなく、今いる図書館はどんなところなのか(図書館業界とかの全体状況も含めて)、自分はそこで何ができるのか、というようなことにすぎない。

それを意識できたのは『自分のなかに歴史をよむ』を読んでからであり、阿部先生の「世間」についての考えに接することで少しは確かなものになったと思う。

もしも10代の時に『自分のなかに…』と出会っていたら、と思う。(本項のタイトルは第1章の小見出しの一つを使わせていただいた。)

阿部先生の安らかな眠りを、おいのりいたします。

Categories: 図書館員 (司書)

加藤宗厚「図書館人の自戒十条」

2005-10-21

最近届いた『大学図書館研究 74号』は、巻頭から3つ連続で読ませる!

岡嶌偉久子さんの「総合目録における和漢古書書誌記述の考察:NACSIS-CAT (NII) 及びNCRでの取り扱いを踏まえて」、渡邊隆弘さんの「継続資料の組織化と総合目録データベース」、森本英之さんの「NII Webcat Plus の北アメリカ地域での有用性:検索及び基盤となる書誌レコードの観点より」である。

インターネットがあれば誰でも「目録で必要な資料を探す」ことを、真の意味で実現させることにつながる話ばかり。

読みたくなる文章をのせている『大学図書館研究』って良い雑誌かも。おっと、それなりの値段でもある。(税込み定価 3,465円)お金じゃないけどね。

図書館人の自戒十条
1 常に図書館の目的を反省したい
図書館は単なる教育機関ではなくして伝達、娯楽の機関であることを反省したい。
2 図書館活動の基調は奉仕にある事を自覚したい
奉仕は単なる掛け声や道具だてではなくて、図書館が利用者のためにあるという平凡な心理を具現することであり骨おしみをしないということである。
3 すべてに親切でありたい
時間を守り、責任を重んじ、事物の処理にあたって親切でありたい。
4 すべてに研究的でありたい
図書館の仕事は一度定形を得ると容易に変更を許さない。ここに研究の停頓がはじまる。すべてを研究的に処理して常に清新の気を保ちたい。
5 理論は実際によって調整したい
最も理論的なもの必ずしも最も実際的ではない。図書館の技術は理論に導かれつゝしかも実際からの遊離を極力さけなければならない。
6 仕事に追いかけられず、仕事を追いかけよう
仕事は速に処理し常に待機の姿勢でありたい。
7 仕事は終始一貫を期したい
先例を考え、将来を察し、縦横の関係に十二分の注意を払い一貫した方針で事を処理したい。
8 協力的でありたい
図書館活動の目的は他の諸機関との協力によってのみ達成される。偏狭をさけて館の内外において事を協力的に運びたい。
9 常に明朗でありたい
図書館人は常に暗いとされている。自己教養やスポーツによって明朗性を養いたい。
10 常に健康でありたい
図書館の環境は必ずしも快適ではないが健康こそはすべての根源である。心身の健康を保って愉快に図書館奉仕に生きたい。
この十条は私の処世のちかいでもあり、自己批判の尺度でもあり、又同志への当面の切望でもある。

これは当館のスタッフルームにしばらく前から貼られているものの写し。加藤宗厚さんの『件名作業』(1957・理想社)からで、7ページからの本文直前、6ページに置かれている。当館は1966年の重版を所蔵している。

ゆっくり読む。さいごの「ちかい」「同志」という語に何かしら感じるとともに、それぞれの条項にさまざまの考えがよぎる。ごく最近は「骨おしみをしない」という言葉に肯いた。机に向かってする仕事はすべて「研究的」でなければおかしいと思う。

ところで国会図書館の目録を「件名=件名標目」で検索すると「84件」しかヒットしないが、個人では加藤さんの5件が最多である。これまでのことは措いて、これから増えればいいか。

【追記  2005.10.24】図書館人の自戒十条は『出版ニュース昭和28年21号(1953)』が初出らしい。同じく「十条」が収録された『喜寿記念図書館関係論文集』の578ページにそういう記述があった。ちなみに『件名作業・重版』と『論文集』では、若干言葉遣いがちがう。

Categories: 件名, 図書館員 (司書), 逐次刊行物

「図書館で職員刺される」のニュースをアメリカ経由で知る

2004-10-19

「酒に酔って騒ぐ利用者」を注意したところ、容疑者が自宅からナイフを持って戻り、事務室で刺された。「注意されて腹が立った」ということだ。命に別状はないようだが、大丈夫だろうか。多くの大学で構成員以外のひとへ図書館の施設利用を広げており、他人事ではない。どのような対策が考えられるだろうか。

ところでこの事件は10月16日夕方の出来事。18日付けの LISNews.com にあったのですが、アメリカまで見に行って、こっち(日本)のニュースを知るって、何ともいえず腑に落ちない感じがありました。「知ってよかった」のだけれど。

■関連→LISNews.com の記事
■関連→LISNews.com の記事の元記事(リンク切れ)
<http://mdn.mainichi.co.jp/news/20041018p2a00m0dm002000c.html>
■関連→LISNews.com の記事の元記事の日本語記事(リンク切れ)
<http://www.mainichi-msn.co.jp/today/archive/news/2004/10/16/20041017k0000m040094000c.html>

Categories: 図書館員 (司書), 図書館災害

ロバート・ギトラーさん死去

2004-10-13

2004年10月8日、カリフォルニア州オークランドにて、95歳。

昭和26年4月に開校した Japan Library School(日本図書館学校=慶應義塾大学文学部)の初代主任教授で、大きな恩人である。(個人的な知り合いではもちろんないが。)あなたが司書資格をもっていて図書館で仕事をしているひとなら、同僚か、教わった先生か、一人二人をあいだに置いた向こうに居られた方だ。

記事によれば、後日、サンフランシスコ大学(University of San Francisco)において追悼の会が行われる。

Categories: 図書館員 (司書), 図書館情報学

『図書館に訊け!』ちくま新書

2004-10-07

大学図書館の職員という同じ仕事をしている井上真琴さんが書いた本。彼我の規模の違いからであろう、「同志社ではそうしてるのか、へぇー」というところも多く、おもしろく読みすすむことができた。が、最後の最後、井上さんの「思い」が書かれたところがある。数行だがこれには驚いた。彼の立ち位置がわからなくなった。

とはいえ、これだけの文章である。労作には違いない。

Categories: 出版, 図書館員 (司書), 大学図書館

13歳のハローワークの司書の項目

2004-01-26

これを読んで、ずいぶん考えた。「専門職」とあるものの、「図書館で働くには必ずしも司書資格が必要でなく」ともある。それからこの文章では“情報”という言葉が「情報サービスなど」とサラリと書かれている。一読したときは“情報”という言葉がないと思いこんだほどだ。

今の13歳が仕事をはじめるおよそ10年以上後、図書館が「図書や雑誌」だけを扱っているとは思えない。(それでは生き残れないだろう、図書や雑誌でさえもきちんと扱っていない現状でもある。)

ここから読み取れるのはこういうことではないか。

司書資格が専門職の条件を裏付けするわけではないということ、「図書館」と「図書や雑誌」は近い関係にあるが、“情報”とは近い関係にないということである。

この本をほめる人は多いけれど、誰もこんなことで、深刻に考えたり、危機感をつのらせたりしないのかな。

【追記 2004/2/6】印象が強かったので、早合点したことがありました。全文を書き換えています。(文意は同等ですが。)間違いがGoogleのキャッシュでしばらく見られると思うと恥ずかしい。

Categories: 図書館員 (司書), 専門職制