「生きてゆくことと学問の接点」
「阿部先生が亡くなった」と知人から聞いたときには「その時が来たのか」と冷静だったが、時間を経て、思い出すたびに悲しい気持ちになる。阿部謹也さんは、直接教わったことはないけれど勝手に先生と思っているひとの一人である。そうであるが故に、失礼な言い方かもしれないが、たいせつな先生である。
とりわけ 「世間」について考えることを教わった。これはわたしにはきわめて重要なこととなった。
『自分のなかに歴史をよむ(ちくまプリマーブックス;15)』は、最初に読んだ先生の本だ。
〈テーマ展示〉など、いろいろな場面で紹介している。とくに学生や院生に対しては、阿部さんが学生時代に先生から言われた、「それをやらなければ生きてゆけないテーマ」を探す、というくだりの話をすることが多い。
ここで、わたしのことも書かねばなるまい。
大学を出て一度就いた仕事を辞めて大学院で勉強した経験、司書という仕事、これらをえらんでやってきた以上、わたしたちの日々の暮らしと学問のかかわりについて考え続けることが必要だと思っている。
難しいことではなく、今いる図書館はどんなところなのか(図書館業界とかの全体状況も含めて)、自分はそこで何ができるのか、というようなことにすぎない。
それを意識できたのは『自分のなかに歴史をよむ』を読んでからであり、阿部先生の「世間」についての考えに接することで少しは確かなものになったと思う。
もしも10代の時に『自分のなかに…』と出会っていたら、と思う。(本項のタイトルは第1章の小見出しの一つを使わせていただいた。)
阿部先生の安らかな眠りを、おいのりいたします。
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