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インチキ本のリストを作ってほしい

2006-09-22

9月23日から30日まで、アメリカ図書館協会(ALA)は禁書週間(Banned Books Week)というイベントを開催する。毎年9月に行われており、今回は25周年ということもあってか、グーグルが協力するというニュース「カレントアウェアネス-R」に流れた。

「読むことができる自由」を讃えることが趣旨で、内容に問題があると批判のあった本(challenged books)を取り上げ、さまざまなイベントが用意されている。

A challenge is an attempt to remove or restrict materials, based upon the objections of a person or group. A banning is the removal of those materials.
(ALAの知的自由のサイト内の「Censorship and Challenges」から)

実際に書架から撤去されて読むことができなくなった本(banned books)は、少ないということである。

ALA、批判の多かった図書2005を発表

当館でも最近では『虐殺の女王』という映画タイトルを聞いた利用者が不愉快に感じたことがあった。

わたしの考えはこうだ。多くの人が不快に感じるもの、内容や表現が異常または下劣なもの、邪悪な品性からつくられたものがあるのは認める。「人はそのようなものをつくってしまう愚かな生き物」だからである。同時に、今「フツーでない」ものが、将来その評価が変わる可能性があることも認める。ともあれ、今現在、それを図書館に置くかどうか、置いた場合の利用方法をどうするかは、個別具体的な対応をすればよい。ただし次に紹介するような本はどうかと思う。

問題があると抗議された本について、図書館関係者がオープンに議論しているアメリカだが、「内容に問題がある」というレベルではなく、「内容に虚偽が含まれる」「内容全体が虚偽」という悪質な本もある。

なかでも『ベイエリア在住町山智浩アメリカ日記』によると「最も有名なインチキ本」は、フォレスト・カーター(Forrest Carter)の幼い頃の追憶を描いた実話として発表された『リトル・トリー(The Education of Little Tree)』である。

この本の邦訳は当館でも所蔵しており、NACSIS Webcat総合目録ネットワークシステム(国会図書館)などで調べると、のべ190館の大学図書館等、および、山形県と新潟県以外の都道府県立図書館すべてに所蔵されている。

人気があるからだろう、近刊では小学生向けの名作選、それから少し前には中学校の国語教科書にも収録されている。もちろん今なお、各地の図書館を含めていろいろなところで推薦されている。

この本がいかにインチキかは、町山さんの「「神に背いた少年」は「一杯のかけそば」」、北山耕平さんの「フォレスト・カーターよ、あなたはリトル・トリーなのですか?」その翌日の記事、そこからのリンクを読んでいただきたい。

※参考までに、こちらは邦訳出版社の広告

このほかにも「実話」として出版された本が、「作り話」だったと後からわかる本はある。最近ではジェームズ・フライ(James Frey)が自伝として出版した『A Million Little Pieces』の事件がある。

これらは特徴的な例にすぎない。失敗データベースではないが、優良な本を選定することと同時に、その逆の意味でのリストを作ってほしい。

▼愛聴しているTBSラジオ『ストリーム』のポッドキャスト(3/14 コラムの花道)で聞いてから、ずっと紹介したかった話をようやく書けました。それから、今回の話の後半に出てくるような本と、「と学会」のいわゆる「トンデモ本」とは別の話です(念のため)。トンデモ本は作者が本気で書いていますが、こちらは嘘つきなのですから。

Categories: Google, 検閲, 出版, 読書

「生きてゆくことと学問の接点」

2006-09-11

「阿部先生が亡くなった」と知人から聞いたときには「その時が来たのか」と冷静だったが、時間を経て、思い出すたびに悲しい気持ちになる。阿部謹也さんは、直接教わったことはないけれど勝手に先生と思っているひとの一人である。そうであるが故に、失礼な言い方かもしれないが、たいせつな先生である。

とりわけ 「世間」について考えることを教わった。これはわたしにはきわめて重要なこととなった。

『自分のなかに歴史をよむ(ちくまプリマーブックス;15)』は、最初に読んだ先生の本だ。

〈テーマ展示〉など、いろいろな場面で紹介している。とくに学生や院生に対しては、阿部さんが学生時代に先生から言われた、「それをやらなければ生きてゆけないテーマ」を探す、というくだりの話をすることが多い。

ここで、わたしのことも書かねばなるまい。

大学を出て一度就いた仕事を辞めて大学院で勉強した経験、司書という仕事、これらをえらんでやってきた以上、わたしたちの日々の暮らしと学問のかかわりについて考え続けることが必要だと思っている。

難しいことではなく、今いる図書館はどんなところなのか(図書館業界とかの全体状況も含めて)、自分はそこで何ができるのか、というようなことにすぎない。

それを意識できたのは『自分のなかに歴史をよむ』を読んでからであり、阿部先生の「世間」についての考えに接することで少しは確かなものになったと思う。

もしも10代の時に『自分のなかに…』と出会っていたら、と思う。(本項のタイトルは第1章の小見出しの一つを使わせていただいた。)

阿部先生の安らかな眠りを、おいのりいたします。

Categories: 図書館員 (司書)

「RedLightGreen」は、11月1日より利用できません。

2006-09-04

あの RedLightGreen が終了する。RLGがOCLCに吸収されたときからわかっていたことではあるが。

RedLightGreen には2度驚いた。

1度目はもちろん最初に使ったとき。それまでにもいろんなOPACを使ってきたが、そのどれとも違う画面、利用者を誘導する表示項目など、新しい体験に未来の可能性を目の当たりにする思いであった。

2度目は日本語で検索できるとわかったとき。日本の図書館システムでも「多言語対応」と言っているわけで、日本語のデータが入力されていれば検索できるのです。

あと近所の図書館の所蔵を調べるとか、論文に書くときの書式で文献リストを保存できたりとか、便利で使い甲斐のある機能もあります。

本当に利用できなくなるのだろうか?

逆にそれだけの機能が「WorldCat.org」に追加される、と受け取ればよいのだろうか?  たしかに、検索枠が1つだけのトップページはRedLightGreenのインターフェイスを参考にしている、と思いました。

海の向こうの激変は、RDAが完成する2008年まで続くのでしょう。

このニュースは『The FRBR Blog』「RedLightGreen closing」(2006.9.1)で知りました。
このエントリーから『RICH :: Ref Info & Com Hub :: Main Page』「RedLightGreen to cease as of Novmeber 1, 2006」(2006.8.28)をたどると、OCLCのRLG Programs担当のMerrilee Proffitt氏(もともとRLGのひとらしい)のメッセージが載っている。
※これを書いている時点で、OCLCからこの件についてのコメントはありません。

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